“「発達障がい」は治療ができない難病ではありません。具体的な向き合い方、どうすれば症状は良くなるのかといった筋道はあります。早期発見・早期介入が求められるのは、治療が早ければ早いほど症状に改善がみられるからです。”医療現場の実情、最新の診断・治療法を専門の小児科医が解説していきます。

ADHDの「治療」とは何か

私が市立病院に勤めていた時のことです。当時、小学1年生であったG君は、母親とともに、診察に来ました。

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母親が待ち時間に待合室で記入した問診票を見ると、誰彼かまわず馴れ馴れしい態度をとる、綺麗に並べたがる、自己中心的なところがありトラブルも多い、自転車&縄跳びが苦手といった症状があったようです。多動型のADHDがメインで、少々自閉スペクトラム症が入っているという印象を受けました。

「何が心配ですか」と私が尋ねると、母親は静かに語り始めました。

「落ち着きがなく、よく離席して廊下や校庭へ行くこともあります。そして、しつこく、妹や友人によくちょっかいを出しています」

「そうですか、大変ですね。お父さんとお母さん、どっちに似たのですか」

「これらの行動は父親の小さい時と同じだと義母が言っていました」

「学校で知能検査をしたようですが、結果は聞いていますか」

私がそう言うと、G君の母親は結果の紙を見ながら、「はい、WISC-Ⅲで、VIQ(言語性IQ):91、PIQ(動作性IQ):96、FIQ(全検査IQ):93でした。85以上だったので、知的には問題ありませんでした。ただし、検査中とにかく落ち着きがなく、じっとしているのが大変な状況だったようです。検査が終了するたびに席を立ち、周囲のものに気が散っていたそうです」と答えました。

問診票などを踏まえ診断するには、少し時間が必要でした。心理カウンセリングなど療育はしていなかったので、まずは生活リズムを整え、ちゃんと行動カードのようなDRC(Daily Report Card)を使った行動療法をやることを指示して、また来てくれるように頼みました。そして、ADHD問診票をわたし、次回の外来までに、親御さんと担任にチェックしてもらい持参してくれるように、頼みました。

次の外来の日がやってきました。この少し前に、実は一つ問題が起きていました。校長が、担任の行ったADHD問診票を、校外へ出さないように言ったそうなのです。親御さんと担任が異議を申し立て、説得し、なんとか外来へと届きました。

プライバシーの観点から外には出せないと考え、医師がADHDを診断するためのツールとは思わなかったのでしょう。あるいは、ADHD問診票のスコアが悪いと、学校で何も対策を施していないのではないかと親や教育委員会に思われたくないと考えたのでしょう。

他にも同様のケースが起こることは十分に考えられます。このようなことがあったとしても、担任などの助けを借り、諦めずに必ず医師のもとへ問診票を届けてください。

ADHD問診票を見ると、母親の方は、不注意型、多動・衝動型のいずれの項目も9項目中、6項目にチェックがありました。担任の方は、不注意型、多動・衝動型いずれも9項目すべてにチェックがついています。

不注意型、多動・衝動型の診断基準となる6項目以上のチェックが両方ともあったので、ADHDの混合型と診断しました。親御さんはどうやらDRCを実践してくれたようです。

ご褒美は鉛筆を買うことで、特別な高得点の場合はオモチャを買うことだったようです。今まで裸足だったのが、靴下を穿(は)き上履きも履くようになるなど成果は見事に出ているそうです。

初診の時に行った問診票の結果や外来におけるジグソーパズルを綺麗に並べて遊ぶなどの行動観察から、G君は自閉スペクトラム症+ADHDであると告知しました。

そして、ADHDに対して治療を開始したのです。すると、学校では3時限目から少しおとなしくなることが多くなり、他人に対するちょっかいも減りました。まだ突然大声を出すことはあるものの、多少の効果は見られました。

そこで予定通り薬を増量していきました。