ギャラリーに6点の絵画を持ち込んだA・ハウエルなる人物とは?

「三点の風景画は山と海と街を描いているのですが、ただ普通の風景画というわけではありません。克明に、かつリアルに描き込んでいますが、構成や表現は、マグリットやデ・キリコのようにシュルレアリスム的にアレンジしています」

「そう言われれば……。ところで、その絵を持ち込んだ方がA・ハウエルさんですか?」
「いえ、彼はただ頼まれて持ち込んだと」
「するとA・ハウエルさんは?」

「私どももハウエルさんとは初めての取り引きでしてね。ですから先方にハウエルさんについて尋ねたのですが、やんわり断られました。ほら、お客さんに尋ねられた場合に答えられませんとね。でも何か深いわけがあるようでした。それで、それ以上深くはお聞きしませんでした」

「A・ハウエルさんがどこに住んでいるとも、男性か女性かも分からなかったのですか?」

「はいそうです。このようなことになるとは思いませんでしたしね。残念ながら素性の分からない画家なのです。それでその後、お値段の交渉となりました。ハウエルさんとは、それまで取引がなかったものですから、私はお望みの値段ではお引き取りできないかもしれませんよと言いました。するとあちらから指値してきたのです。

『よく分かっております。今回は六点全部を三十万エスクードでお買い上げ頂けませんでしょうか?』と。

このような場合、通常の絵であれば全部で二十万くらいまでしか出せないのです。でも絵のできがまことに素晴らしかったので。それで結局、先方の言い値で購入させていただきました。女性のポートレートはショー・ウィンドウの中央に飾り、風景画は外からでも良く見えるように室内の壁に飾ったんですよ」