いったい、どうなっているのだ?
「ちょ、ちょっと、待ってください。私は、不合格だったのでは?」
駄熊太(ドゥオシュンタイ)と名のった宦官は、司礼監新任者のところではなく、掲示板のはしを指さした。欄外に、王暢(ワンチャン)、とある。
どういうことなのか、さっぱりわからない。
「宦官のなかには、皇帝をはじめ、皇后、皇妃、九嬪の方々に直接仕え、身のまわりをお世話申し上げる者がいる。そなたは、その役割を仰せつかったのだ。大任だ。これは、天命であるぞ」
この私が?
「得心したか」
ずんずん歩いてゆく。通されたのは、大人が四人もはいれば身動きできなくなるような、陽のささぬ、せまい部屋であった。ところせましとならべられた大量の書物に、空間が、圧迫されているのである。うながされるまま中に入ると、なかば黴かび、なかば朽ちた、ふるい書物特有のにおいが、鼻をついた。
駄熊太(ドゥオシュンタイ)師父は、山と積まれた書類の中から、両手にあまる大きさの、画帳をとり出した。
「見よ」
表紙をめくると、高貴な―と思われる――貴婦人の肖像が、目にとびこんで来た。九龍四鳳(きゅうりゅうしほう)、十二の大珠花をあしらった冠に、金雲龍文(きんうんりゅうもん)を織り込んだ深青の翟衣(てきい)。大明皇后の冠服にほかならなかった。
「方(ファン)皇后陛下だ。後宮に立居していると、皇后陛下をはじめ、皇妃、九嬪のかたがたに出会うことになる。この画集をよく見て、尊顔と芳名をおぼえ、くれぐれも、無礼のないようにせよ」
頁(ページ)をめくると、つぎつぎと皇妃、九嬪(きゅうひん)の似顔絵があらわれた。