参─嘉靖十五年、宮中へ転属となり、嘉靖帝廃佛(はいぶつ)の詔を発するの事
(2)
ふたりの少年は、私のうしろにまわって、鷹ににらまれた雀(すずめ)のように、小さくなっている。待ってくれ、私だって、なすすべはないぞ。
啖呵(たんか)を切った女官の背後から、かがやくような美貌の女性が、しずしずとあゆみ出て来た。女官ではなかった。華麗な真紅の衣裳は、それに身をつつんだ女性が、皇帝陛下の妃嬪(きさき)であることをものがたっていた。
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曹洛瑩端嬪(ツァオルオインたんぴん)であった。
その歩調には、すずやかな気品もさることながら、地位に裏づけられた余裕がにじんでいる。彼女は、私の目をまっすぐに見すえて、清婉(せいえん)たる微笑をふくんだ。海棠(かいどう)の花が、こぼれるかのごとくに。
「そなたも宦官のようですね。どの衙門(がもん)の者ですか」
「……新年より、あらたに司礼監へ配属になりました、王暢(ワンチャン)と申します」
作法にのっとって拝跪(はいき)すると、ふたりの少年宦官も、それにならった。
「司礼監ですか。おつとめご苦労さまです」
「いえ……滅相もありませぬ」
「そのお二方は?」
「この二人は、内書堂で学んでおる者どもです。そうだな」
「は、はい」
「そうでしたか。顔をおあげください、王暢(ワンチャン)どの。うしろのお二人も」
その言葉に従って、顔をあげたが、直視することはできず、視線を落としたまま、その場にひかえた。