「わたくしも、宮廷入りしてから、まだ日があさいので、まごまごすることが多いのですけれど……つい先ほど、秉筆太監(へいひつたいかん)の、李清綢(リーシンチョウ)どのを見かけましたよ。新任者が粗相せぬよう、基本の心得を、しっかり教えこんでおかなければと、はりきっておられました。そなたは、行かなくていいのですか?」
いたずらっぽく笑った。どこまでも優美なものごしである。
「いま、李清綢(リーシンチョウ)どのは、文華門(ぶんかもん)の前あたりに、新任者をあつめて、訓示を行っているはずですよ」
「……おい、端嬪(たんぴん)さまがああおっしゃるから、ともに参ろうか」
背後でおびえる二羽の小鳥をかえりみて耳打ちすると、一も二もなく、うなずいた。
「では、これより、文華門にまいります。端嬪(たんぴん)さまのお気遣い、感謝申し上げます。感謝申し上げます……」
私は、二人を連れて、足早に、その場を、去ったことであった。こんなに早く、洛瑩(ルオイン)に再会することがかなうとは。いや、今となっては、呼び名に気をつけなければならない、曹端嬪(ツァオたんぴん)だ。
うれしいことにちがいないが、もう、立場が、ちがうのだ。以前のように接することはできない。
皇帝の嬪となった彼女を祝福したい気持ちと、私などはるかに超えて、多くの人にかしずかれる身分となった彼女を、仰ぎみる気持ちがせめぎ合って、想いは、千々にみだれた。