参─嘉靖十五年、宮中へ転属となり、嘉靖帝廃佛(はいぶつ)の詔を発するの事
(2)
田閔(ティエンミン)が私に告げた、配置替えのことである。彼があれほどよろこんでくれたので、私も、てっきり司礼監(しれいかん)へ異動するものと思っていた。
ところが、はり出された人事異動の告知をみて、急転直下、私は思わず、あんぐりと口をあけた。司礼監配属のところに、はたして、私の名前は、なかったのである。
やっぱりか……私は、自嘲の笑みをもらした。人なみ以上に、誠実に生きようと思い、努力もしてみたが、どういうわけか、夕陽をあおいでうなだれることになるのだ。
司礼監に田閔(ティエンミン)をたずねると、部下が出てきて、留守だという。
手ちがいではないかと、再度、掲示板確認をしてみたが、やはり、追加発表は、なされていなかった。がっくりとうなだれた――その矢先、私を呼ばわる声がきこえた。
「王暢(ワンチャン)、王暢(ワンチャン)はいるか」
宦官独特の、甲高く、嗄(しわが)れた声である。声の主は、宦官帽をかぶった、ひょろりと背の高い閹者(えんじゃ)であった。
「……ここに」
「おお、そなたが王暢(ワンチャン)か」
彼は、私を見下ろして、無遠慮に睨めまわした。
「なんだ、ながらく、肉体労働をしていたというのに、貧弱な体格だのう。掲示板を見たか」
「おそれながら、拝見つかまつりました」
「われは、乾清宮の太監代理・駄熊太(ドゥオシュンタイ)だ。そなたは明日から、われの下で仕事をすることになる。それに先だち、おぼえておかねばならぬことを説明するから、こっちへ来い」