参─嘉靖十五年、宮中へ転属となり、嘉靖帝廃佛(はいぶつ)の詔を発するの事

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その中に、曹端嬪(ツァオたんぴん)のものもあった。窈窕(ようちょう)たるたたずまい、澄んだまなざし。泛(はん)たり、艶(えん)たり、これが、星眸(せいぼう)というものであろうか。

私の知る、天賦(てんぷ)の聡明さと、心情のやさしさが、よく描き出されている。絵師のわざに感心した。

さらに画帳をめくる。つぎの頁も、そのまたつぎの頁も、描かれているのは、美女ばかりだ。さすがに宮中は、大陸中から佳麗があつめられているだけあって、花の咲きみだれる園というにふさわしい。しかし、どの頁の、どんな美女を見ても、結局は、曹端嬪(ツァオたんぴん)の肖像に、もどって来てしまうのであった。

「なんだ、そのお方がお気に入りか」

私は、悪事を見つかった子供のように、しどろもどろになった。

「そなたも、なかなか目が高いな」
「いえ……」

「隠さずともよい。万歳爺(ワンスイイエ)(皇帝)は、ことのほかそのお方がお気に入りだ。宮中に入られたのはつい最近だが、またたく間に、夜のご指名を、一身に受けられるようになった」

「……そう、ですか」
あの子が、皇帝の寵愛を……。

「こう言っては不遜であるかもしれませんが、眼福であります。まことに、美しい方ばかりですね」
通りいっぺんなことを言って、ごまかすと、師父は、意外なことを口ばしった。

「たしかに、つらの皮いちまいは美しいが、それ以外はのう」

――え。

「誤解するな。われは、だれか特定の妃嬪をさして、蔑(さげす)んでいるのではないぞ」
ここだけの話で、他言は無用である、と前おきして、細い目に力をこめた。

「女とは、けがらわしいものである。そうではないか?」