なんと答えるべきか……思案をめぐらせた。
「世には、志操たかく、愛情のこまやかな女性も、いることと思いますが……曹端嬪(ツァオたんぴん)のように。それだからこそ、皇上も気に入られたのでは、ありませんか? 女性(にょしょう)は、ほんらい善良なものであると思います」
「ほほう……察するに、そなたは、よき女(ひと)との出会いを、もったものとみえる。われとは、人生の出発点が、ちがうようであるな」
駄熊太(ドゥオシュンタイ)師父が、にやりと笑った。
「宛転(えんてん)たる蛾眉(がひ)、よく幾時(いくとき)ぞ。須臾(しゅゆに)して鶴髪(かくはつ)みだれて糸のごとし――われはもう二十年も、天子に仕えるとともに、女人に仕えて来た。正徳帝が、まだご在世だったときからだ。
宮中に連れてこられる娘たちは、世間からみれば、そりゃもう、美しいにきまっている。皇帝に献上するために、全国から、選りすぐられた花なのだからな。
しかし、花をして羞じらわしめた乙女も、十年もすると、倦怠のなかに、すっかり変貌をとげてしまうものだ。そなたは知っているだろう、漢の呂后(りょこう)のことを」
呂后とは、漢の高祖の正妻で、その残忍さはことに名高い。高祖の死後、寵愛あつかった側室、戚(せき)夫人の目をえぐり、鼻をそぎ落とし、四肢切断して、便所にころがした。戚夫人は糞尿を浴びせかけられながら、絶命したといわれる。
「悪名たかき呂后も、むすめの時分には、愛らしかったにちがいないのだ。それを惟(おも)え。まことに、女というものは、おそろしい……そのおそろしいものが、美貌と柔肌をまとっているのであるから、なおさら、しまつに負えん」
「はあ……」
「若いむすめは、どうして、あんなにも男を魅了するのであるか……その笑顔は、まさに魔力だ。花のように繊細可憐でありながら、そのじつ、わが明(みん)の最強精鋭部隊にもまさるのだ。
鬼神をもおそれぬ勇士どもが、ころりと参ってしまうのだからな。まことに、驚嘆させられる……しかし、それにもましておどろかされるのは、あれほど可愛らしかったむすめが、なぜ十年後、二十年後には、養いがたき怪物と化すのであるか!」
真顔である。