「ここには古くからロイド家の別邸がありましたの。広大な敷地に建てられたカントリー・スタイルの建物で、市の歴史遺産にも指定されているほどのものです。私は市役所に赴いて出生証明書と戸籍謄本を取り寄せました。現在この別邸を管理している執事にも、さりげなく当時の様子を聞きだそうとしました。

でも、昔とはすっかり変わってしまって。もちろん、乳母がいるはずもなく、残念ですが何も分かりません。私の部屋がそのまま残されていましたが、家具類は全て白い綿布で包まれていて、まるで時間が止まってしまったかのようでした。役所から取り寄せた書類を隅から隅まで幾度となく目を通しましたが、何の問題もなさそうでした。


[出生証明書:名前 エリザベス・ヴォーン。第一子。女。
筆頭者:父、エドワード・ヴォーン
母、キャサリン・ヴォーン
1965年4月6日ブリストルにて出生] 

そのとき、傍らの書棚の存在に気がつくと、心臓が早鐘のように鳴りました。もしやと思ったのですが……、やはり小さい頃の写真など一枚もありません。

そういえば中学時代にこんなこともありました。子供の頃のアルバムを全部捲ったことがあったのですが、赤ちゃん時代の写真は一枚もなかったのです。

そのことを母に確かめると、アルバムはあるはずだけど、倉庫の奥深くにしまい込んでしまったから。お前が結婚するときには掃除をしなければねと」