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「私はまず自分一人で調べられないものかと考えたのです。親展文書は私一人で目を通しましたので、この事実を知るものは周りには誰一人いないはずです。文書には次のようなことが綴られていました。

『エリザベスへ

お前も知っての通り私はすこぶる健康だ。しかし人生、何があるかは神のみぞ知るだ。だから熟慮した結果この手紙を残すことにした。私の身に突然の死が訪れたとき、この手紙を開封してもらいたい。自分勝手な言い方になるが、対処方法を含めて全てお前にそれを委ねるということだ。

エリザベス、お前にはこれまでもどれほど真実を話そうと思ってきたことか。しかし結局ロイド・グループは巨大に、そして偉大になり過ぎてしまった。このことがスキャンダルにされたなら、ロイドの信用は一瞬に失墜し、全ては無に帰すだろう。

だから今日までどうしても話せなかった。しかし最近になって、いざというときのことを考えると、真実だけは伝えなければならないと考えるに至った。

良く読んで真実を知ってもらいたい。実は、お前は、二歳のときにフェラーラ夫妻から譲り受けた子で、本当の名は、ユーレ・フェラーラという。

お前のミドル・ネームであるユーレはこの名を使ったものだ。ポルトの地で、三十八歳で夭折したイタリアの天才画家ピエトロ・フェラーラが授かった双子の娘の妹なのだ。

詳しい居場所までは分からぬが、本当の母親は風の便りで現在ポルトガルに住んでいるとも聞いている。名前はアンナ・フェラーラというポルトガル人だ。