俳句・短歌 短歌 2020.12.06 歌集「祈り」より三首 歌集 祈り 【第7回】 佐藤 彰子 ―ああだから月はみんなに愛されるんだ自分ひとりを見てる気がする― 夜明けに人知れずそっと咲く花のように、 それでいいんだよ、と許してくれるような、 自分のかわりに、幸せを願ってくれるような。 心に灯りをともす、優しくあたたかな短歌を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 縷紅草あかく咲けるを告げようよ母から種を貰い来しもの お母さん一緒に歌おう幼き日うたいてくれし「ダリアの夢」を 「お母さん」呼びかけながら「お母さん」と呼ばれることなき我を思えり
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『標本室の男』 【第8回】 均埜 権兵衛 長身でにやけた三流役者といった風貌の三十一歳の医師は看護師の質問をはぐらかし… 夜半の雨はいつの間にか上がり、翌日も快晴となった。朝陽を浴びて窓の曇り硝子が眩しい程に輝いていた。妻の彰子が起きがけにカーテンを引いていったらしい。居間の方で絵里子のはしゃぐ声がしていた。時々それに応える妻のものやわらかな声が響く。今日はドライブに出かける約束をしていた。天気がよかったら岬巡りをするつもりでいたのだ。窓越しの朝陽を見ていると、目の前に青々と広がる海が見えるかのような気がした。だが…