俳句・短歌 短歌 2020.10.25 歌集「祈り」より三首 歌集 祈り 【第1回】 佐藤 彰子 ―ああだから月はみんなに愛されるんだ自分ひとりを見てる気がする― 夜明けに人知れずそっと咲く花のように、 それでいいんだよ、と許してくれるような、 自分のかわりに、幸せを願ってくれるような。 心に灯りをともす、優しくあたたかな短歌を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 次回の記事へ 最新 全身に月のひかりを浴びながら樹々たちすべて背伸びしている 月光のあまねく空を泳ぎたりもう一人のわれに出会いたくって 青白き月の光と口笛と交信しつつ流れつづける
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『巨大鯨の水飛沫 』 【第2回】 喜田村 星澄 おばあちゃんがシロナガスクジラはいつ帰ってくるのかとしきりに聞いてきて… 「お母さん、お世話になります」お父さんがおばあちゃんに喋りかけた。何やら大人たちが喋り始めたとき、私は懐かしく部屋を見てまわる。そうしたら、そこに雑誌の切り抜きと思われる鯨の写真が、その雑さや粗さのままに貼られているのを見つけた。お母さんの声がふと耳に入る。「かあさん、この鯨は?」(鯨?)おばあちゃんに鯨なんて、全く縁がないように思う。おじいちゃんが漁師だったわけではない。建築関係に勤めていたと…