「この愛澤一樹、まだまだ駆け出しではございますが、ご参集賜りました皆様のご指導を頂きながら、力の限り書き続けます。活字離れが言われて久しいですが、それは作品次第だと信じています。世の中に受け入れられる作品をどしどし書いて活字離れなど吹き飛ばしますのでご期待ください」

堂々たるものだ……思わず呟つぶやいた。堂々たるものだ……もう一度心で呟いた。そして、いつかは俺も、と念じた。

「最後に、本日お集まりいただきました皆様方の益々のご健勝を祈念いたしましてわたしの挨拶の締めくくりとさせていただきます。本日はありがとうございました」

会場は割れんばかりの拍手に包まれた。深々と頭を下げた川島が直ると、目線が合った気がして思わず顔を伏せた。今の俺には川島の姿はあまりにも眩し過ぎた。

出口で記念品を受け取り、足早に階段へ向かった。あの会場にいた人々と同じエレベータに乗る気はしなかった。誰も自分のことなど認知していないことは明らかなのに、なぜか憐みの視線に晒(さら)されるような気がして一刻も早くこの場を離れたかった。

「芹生くん」
一人だけ認知している人間が声をかけてきた。理津子だった。

「そそくさと帰ろうとするなんて、冷たいわね」
「あ、いや。君を探したけど見つからなくて。先に帰ったと思ったよ」
「そのわりには急ぎ足だったわね。しかもエレベータでなく階段に向かって。何か約束でもあるの?」
「いや、何もない」

「それだったら久しぶりに会ったのだし、軽く飲み直しをしない?」

あれほど一刻も早くこの場を去りたかったのに、理津子に誘われると不思議と救われた気がした。会場にいる間に心の底に溜まった得も言われぬ感情を掻(か)き出したかった。感嘆、気後れ、焦り、そして嫉妬と奮起、もろもろの感情が滲にじみだし、溶け合い、ヘドロのように沈殿した。決して負の側面ばかりではない、表現しがたい感情を。

「ああ、いいね」
「近くに行きつけのバーがあるからどうかしら。どうせ川島くんは関係者と二次会でしょうから。二人で飲みましょう」
「リコに任せるよ」