ライジング・スター
「紙一重ですか」
「はい。このような場合は、選考委員会でのちょっとした発言によって結果が左右されることがあります。その場の空気の醸成とでも言いますか」
遠くに見えていた川島との距離が、少し縮んだ気がした。
「ただ、受賞した作品を後で読み返してみると、やはり受賞に相応しく思えてくるから不思議なものです。詰まるところ、それなりの先生方が選考委員を務めて、真剣に吟味しているわけですから。総合的な評価は、ほぼ的確ということでしょうね」
思い切って訊いてみた。
「川島、いや愛澤一樹が受賞した理由を教えていただけませんか?」
「愛澤先生の受賞作についてですか。逆に芹生さんはどう評価しますか?」
「あくまでわたし個人の感想ですが。受賞は意外でした」
「なぜですか?」
「正直なところ、芸術性をあまり感じなかったからです。青陵文学賞は純文学が対象ですよね」
「なるほど。確かに愛澤先生の受賞作は、いわゆる純文学のジャンルに入らないかもしれませんね」
「だとしたら……」
島崎はニヤリとした。
「時代を先取りしたということではないでしょうか」
「時代の先取りとは?」