ライジング・スター
「皆様。本日は長時間にわたり『愛澤一樹新作出版記念祝賀会』にご出席を賜り、誠にありがとうございました。いよいよ会も佳境となってまいりました。締めくくりといたしまして、本日の主役より皆様へ謝辞を述べさせていただきます。愛澤先生、よろしくお願いいたします」
司会の導きによって再び川島が登壇すると、ざわめいていた会場が静まり返り、川島は深々とお辞儀をした。
「本日はわたしのような未熟の輩(やから)のために、かくも大勢の皆様にお集まりいただきましたこと、光栄の極みでございます。わたしの三作目となる新作『既視感のある情景』の上梓につきましては、葭葉出版の鏑木(かぶらぎ)社長および島崎編集部長に多大なるご助力を賜りましたことを深く御礼申し上げます。また、持ち前の天然ぶりと押しの強さでわたしに執筆を煽(あお)り続けた担当の西脇さんがいなければ、出稿はだいぶ先のことになっていたことと思います」
会場がどっと沸いた。
「さて、今回の新作は前二作とは趣向を変え、『輪廻転生(りんねてんしょう)』をテーマに男女の愛の心の襞(ひだ)を描いたものとなっています。と言うと難しく聞こえるかもしれませんが、愛澤流のひねりを効かせた仕掛けをそこかしこに散りばめており、飽きさせない作品に仕上がったと自負しております。
わたしが追い求めているテーマである『芸術とエンターテインメントの融合』を、本作『既視感のある情景』では表現できました。疑われる方は記念品に本作を忍ばせておりますので、ぜひお帰りになってからお読みください。ただし、読みだしたら止まらなくなり徹夜になること必定(ひつじょう)です。明日の予定に大事な仕事がある方は、今夜は読むことを控えてください」
再び会場がどっと沸き「アイザワ~」、「イツキ~」というかけ声とともに拍手が巻き起こった。
「芸術とエンターテインメントの融合」だって? 驚きとともに疑問が頭を擡(もた)げる。