フェラーラの描く妻アンナの肖像である。またしてもフェラーラか! 何だ絵葉書か? そうか、コジモはフェラーラの絵葉書をくれたのかと、苦笑いし、封筒にそれを戻そうとした矢先、絵葉書の裏面を押さえている人差し指の感触が、イメージと違うことに気がついた。

ハッとして、表を押さえている親指と、裏面に添えている人差し指とを、静かに横にずらしてみた。胸が騒ぎ、葉書を持つ右の掌がじとっと湿った。すると絵葉書の下から、別な紙が一枚、その姿を現したのだった。

それはカラー写真だった。くっ付き合っていたためか、一緒に取り出してしまったらしい。絵葉書を机に置いて写真の方を見たところ、それは誰かの家族写真らしかった。どこかは分からない部屋。

イーゼルが何組か立てかけられ、描きかけのキャンバスがそれぞれその上に乗っている。その前には、いかにも年代ものといえそうな、ゴブラン織りの布で包まれた古いカウチ・ベンチ。そこに二人の幼い女の子が座ってこちらを見ている。

あまり明るいとは言えない室内だが、高窓から射し込む陽の光が、ちょうどその家族を斜め上から捉えている。ニスが一面に塗られ、光沢のある飴色の脇机の上には、その口に溢れんばかりの絵筆を銜え込んだ大きい花瓶が二個。

机の上にばら撒かれた夥しい絵の具の数々。塗りたくられた分厚い絵の具によって、そのものが現代絵画の作品と見まごうようなパレット。直径三十センチメートルもあろうかと思える大きな灰皿と夥しいタバコの残骸。

写真を裏返すと、短い説明が青インクでこのように書かれていた。

[コジモ・エステ様 必要に応じてこの写真もお使いください。
ユーラ(左)、ユーレ(右)
一九六六年二月ピエトロ・フェラーラ]