第5話「出合い」
私は就職して働き始めました。
地元のホテルの和食レストランです。
私は調理場で働きました。
母は私に言いました。「あんたを育てるのには苦労した。学校へ行かせる為にお金もたくさんかかったから今度はだいちの番やで、だいちが高校へ行くのにお金がかかるから、どこにも行かずにしっかり働いて家にお金を入れなさい」と。
私は母の道具の様なものでした。
妹は高校へは行かずに家を出て就職し、母から離れて自由になりました。
私は会社の上司が車が無いと不便やからと仕事の時間をうまく調整してくれて自動車学校に行く時間を作ってくれました。
お金が無いからといって行かないわけにもいかなかったので、父にたのんでお金を借してもらう事になりました。
父は母と別れてすぐの頃はよく私達に会いに来ていましたが、母が男を連れて来る様になると来なくなっていました。
母が父の所へ私を連れて行ってくれました。
免許を取ると父は私に古い軽自動車を用意してくれました。
私はそれに一年くらい乗ると自分の給料で何とか払えるくらいの新車をローンで購入しました。親せきの人に保証人になってもらいました。
新しい車を手に入れた事で私には一つ楽しみができました。
がんばらなくてはと思っても私には男ばかりの職場がきつかった。
何人もいる先輩達は皆が同じ事を言ったりはしません。Aさんの言う通りにしていると
Bさんにしかられたり、どうすればいいのか分からずに泣いていました。
毎日忙しくて、自分の車を洗車してきれいにする事が楽しいくらいでした。
お金も無く、一人でどこかに出掛ける事もありません。
会社では先輩の誘いを断って今よりひどい目に合うのも嫌なので付き合っていました。
色々あって一年くらいで体重が10kgほど減って、髪もばさばさ抜けていきました。
相変わらず母はひどいやつで、「さくらは仕事が忙しいで行かないから私達だけで旅行に行って来るからね。」と私の予定を聞く事すら無く、自分達だけで出掛けて行きました。確かにあまり気のりしないわけですけど何もそんな扱いをしなくてもいいやろと思いながら腹立たしくも思いました。
母はイベントが好きなので成人式の写真を撮ると言ってはり切って私も着物選びだけ連れて行かれました。着付けやスタジオは全部母が決めていました。私には何の相談もありません。髪型や帯の結び方などされるがままです。
母の思うがままのお人形のようなものです。完全にこわれていたから私はこんな感じだったのです。
その頃ハガキで何かが当選しましたよという文書を送り、契約書にサインさせる詐欺がはやっていました。私は詐欺と分かっていて引っかかりました。金銭が発生するギリギリで解約の手続きをしたりして少しスリルを楽しんだりしていました。
母の買ってきた着物のローンや自分で買ったエステや矯正下着のローンでもう首が回らなくなっていました。
そこで仕事が終わってからのバイトを探しましたが、なかなかいい仕事はみつかりませんでした。
私がいつもの様に仕事をしていると同じ会社で別の仕事をしている同い年の女の子が振り袖姿で「成人式だよー。」とやって来ました。
皆に見せに来たよと私はこの時はじめて今日が成人式だと気が付きました。
私の上司も「さくら、お前もちがうんか? 何で言わへんだんね、休み取らなあかんやろ」と言われましたが、すっかり忘れてました。
家に帰って母に手紙とか来てなかったとか聞きましたが、知らないと言われました。
この頃ろくに友達付き合いもしていなかったので知らせてくれる人もなく、私は成人式に出席できませんでした。
自分でも何も気にする事なく働いて家で家事をする毎日で、すっかり忘れていました。
何の為に生きているのか分からなくなり、ローンも大変な事になっていたので払う為に本気でバイトを探さないといけないと考えました。
私は少しでも給料のいいバイトを探して見つけたのですぐに面接に行きました。
はじめての夜のお店はキャバクラでした。
母が働いていたスナックとはまた別の感じで少しドキドキしましたがお金の為と思い、心に気合いを入れて行きました。