【前回の記事を読む】「走れ走れ走れ!」アナスタシアの替え玉にされ、真っ赤に焼けた鉄の棒を肌に押し当てられた瞬間…かつて私を売った彼が現れ…
第一部
「今のあなたも素敵です。陶器のようななめらかな肌。赤い唇。愛しています」
「私はマダムなの。結婚しているの。33才のおばさんよ」
「美しいマダム。謙遜してはいけません。もう一度口づけしてもいいですか?」
ハナ、とまどいながらも手を出す。青年は口づけして、
「これで私もふっ切れました。美しいマダム。ご多幸をお祈り申しあげます」
そう言うと、エドアルドは去っていった。
ハナは、エドアルドの熱い告白に胸がときめいた。夫からかけてもらえなかった優しい言葉の数々。ハナは、このときめきに困惑をかくせなかった。
次の日、団長がサーカスの雑用をしていると、
「ピエールポッチャリ、ピエールポッチャリ」
驚いて振りむくと、エリカの姿が――。
「あなたは、ロシア皇帝の道化だったのね。あなたも財宝を求めているの?」
「私が求めているのは、マイとアナスタシアの幸せです」
「団長……」
「マイがアナスタシアと思っていた?」
「いいえ。彼女はシャインダイヤモンドをつけていた。ロシア皇帝の宝石です。でも彼女には小さな火傷しかなかった。彼女をアナスタシアにしたてようとしている組織がある。私はマイを助けたかった……」
「ありがとう団長。アナスタシアは、どうなったの?」
「皇帝一族が、とらわれの身となった時、貴族の子供に、もう病が治らない少女がいました。彼女はアナスタシアと同じ年で、背格好もよく似ていた。皇帝の信奉者である貴族の男は、自分の子供とアナスタシアをすり替えた。そして皇帝は私に沢山の財宝を託し、アナスタシアを守るよう誓わせました」
「もう時間はありません。私とアナスタシアは馬車に乗って逃げました。しかしアナスタシアはお気に入りの熊のぬいぐるみを落とし、それを拾おうとして馬車から転げ落ちたのです。馬車は止まらなかった――」
「私は一人パリにむかい、サーカス団を立ち上げました。それからは、東にアナスタシアがいると聞けば東に行き、西にいると聞けば西に行く。そんな毎日です」