「そんな……」
病院は誰もいず静まりかえっていた。なぜ、二人が時間外の面会に通されるのか、それは別れが近づいているからだった。
『きっと、これで助かる』
あの時の二人の高揚は無残にも打ち砕かれた。
二人はまじろぎもせず善行を見つめていた。
善行は、一瞬苦しそうな顔をしたが口を真一文字に結んで眠っていた。
不意に目を開けこちらを見た。そして微笑んだ。「父ちゃん!!」。微笑んだように見えたのは死の直前の筋肉の弛緩だったかもしれない。
だが、二人を見つけた喜びの笑顔に思えた。モニターが一本になってピーと音が聞こえた。先生がドラマでするように脈を取り瞳孔を確かめた、ゆっくり看護師に指示を出している。
『父ちゃん、逝かないで!!』
不思議と涙はでなかった。頭の中の神経が何かに蓋をされて思考が出来なくなっていた。奥の方で耐えられない感情が行き場をなくしていた。
白い布が善行の顔に掛けられた。もう二度と顔を見られないように布一枚は堅く重い扉のようにのしかかっていた。医師と看護師が二、三言、何かを言っていた気がしたが耳に入らなかった。
コロナ患者の為、その遺体に触れることも近づくことも許されなかった。
善行は、いつものように眠っているだけに思えた。
『父ちゃん、なんしよんね、起きんね』そう言うと、
『すまん、すまん』
と起き上がるような気がしていた。神様は、人が死ぬと周りの人をワザと忙しくしてその哀しみに浸らないようにしているのかもしれない。
試し読み連載は、今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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