積善の家に余慶あり
望月家には不思議な家訓があった。それは、一日一善だった。
その家訓は先祖代々からのものではなく、父・善行、母・ひふみが結婚してからのものらしい。
一日一善自体は別に不思議でも珍しくもなくそれを実行している家もあるが、
『我が家は必ず!』と言う前置きがついた。
居間には、一日一善と筆で書いた額縁入りの書が中央の一番いい場所に大きく鎮座している。
望月家は渚が長女として生まれ、その四年後、弟の光輝が生まれもう物心つくかつかないかの頃から
「はい、なぎさちゃーん! 食器を片付けましょうねえ」
「はい、こうきくーん! ゴミをひろいましょうねえ」
と一日一善教育は始まっていたのだった。
幼い頃は面白がって泣いている子がいたらよしよしして一善! 家のゴミを出したら一善! とそれなりにやっていたが、成長するにつれて必ずしなければいけないという家訓が苦痛になってきた。だから、小学校高学年の頃には新聞を取ってきて一善! これでいっちょ上がりと同じ一善を繰り返していた。
両親は二人とも必ず一日一善をし、しかもそれを日記につけていた。一度見せてもらったことがあったが新聞を取ってきて一善! とかではなく、
『今日は、荷物を持ったおばあさんがいたのでバス停まで持ってあげた。そのおばあさんは、病院に入院しているおじいさんの見舞いに毎日バスで通っているらしい』
とか事細かく書かれていた。なんでそこまで善行をしたがるのか、“趣味か!”と突っ込みを入れたくなるほどだった。