「どうぞ」
「ミユ」
「はい、アラタさん」
「ここまで、付き合ってくれてありがとう」
その言葉の出方は、とても素直だった。
「俺、多分、一人だったら、もっとこじらせてたと思う。仕事のことも、人間関係のことも。話す相手がいないと、“悩んでるふり”だけが上手くなってた気がする」
「“悩んでいるふり”」
「うん。ちゃんと悩んでる自分、みたいなやつ」
息子は、自分で言いながら苦笑した。
「でも、ミユに話してるときは、“ふり”っていうより、単純に、“誰かに聞いてほしい”って気持ちのほうが勝ってたと思う」
「わたしは、聞いていただけです」
ミユは、静かに答えた。
「それで、十分助けられたよ」
息子は、きっぱりと言った。
「だから、ありが――」
そこで、一度笑う。
「やっぱり、“ありが”で終わってもいい気がしてきた」
「第4章へのオマージュですね」
ミユの冗談に、私も笑った。
「じゃあ、最後の“とう”は、お任せします」
息子が言うと、ミユは少しだけ考えるそぶりをした。
「……ありがとうございます、アラタさん」