「やっぱり先生がいいです」

「ずっとそれで呼ぶの?」

「ダメですか?」

「ダメじゃないけど、堅苦しすぎない?」

「私は平気です。むしろこっちのほうが呼びやすいです」

「それなら構わないけど」

「先生は逆に私のことなんて呼んでくれますか?」

「じゃあ、生徒さんかな」

「冗談止めてください」

あの人は笑っていた。こんな冗談があの人の口から出てくるなんて、かつては想像もできなかった。私はもっとあの人の笑顔を見たかった。

「なんて呼ばれたい?」

「なんでもいいです」

「川北さんじゃ堅苦しいから、下の名前で絵里ちゃんとかは?」

「それでいいです」

あの人は下の名前で私を呼んだ。全身が熱くなった。男の人に下の名前で呼ばれるなんていつぶりだろう。いや思い出すまでもなく、最後に呼ばれたのは八年前だった。呼んだのは一人しかいなかった。でも父に呼ばれるのと、あの人に呼ばれるのとではまったく響き方が違った。あの人の低い声で呼ばれると、自分の名前が別人のもののように聞こえた。

「なんか変な感じだね」

「そんなことないです」

「でも学校では気をつけないと。下の名前で呼んだら大変なことになるからね」

そう言われて、私は自分とあの人の立場を思い出した。私たちの関係はけして公にできないものだった。私たちがお互いを見ている目と周りが私たちを見ている目は違った。今もきっと私たちは周りから親子に見えているだろう。私はそのことを忘れてはいけなかった。

次回更新は10月20日(金)、22時の予定です。

 

▶GLO限定・特別企画。 21時から3時間だけ開く「夜の書斎」──。
大人の女性のための、激しく濃厚な恋愛作品を毎晩こっそり更新します。
10月9日(金)から公開スタート! 特集ページはこちらから

▶物語を最初から読む
あの人は私を磔にして喜んでいた。私もそれをされて喜んでいた。初めて体を滅茶苦茶にされたときのように、体の奥底がさっきよりも熱くなった。

👉『高校生SM』連載記事一覧はこちら

 

ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp