「冬の海に入るなんて無茶するからだよ」
あの人は呆れたように笑っていた。
「だってこんなに冷たいとは思わなくて」
「バカだな」
私は手に息を吹きかけた。指先にまだ磯の香りが残っていた。
「少しは温かくなった?」
「はい」
私は手と手をこすり合わせまた息を吐きかけた。すると突然あの人が「貸してごらん」と言った。私は何が起きたのか一瞬わからなかった。目の前に私の手を包み込む大きな手があった。
「こっちのほうが温かいでしょ?」
あの人の手は私の手をすっぽりと覆っていた。私は全身から熱が出てくるのがわかった。心臓が苦しいほど激しく血液を送りだしていた。さっきまで何も感じないほど冷え切っていた顔の筋肉にまで熱が戻ってきた。
私はあの人を見た。あの人は私が見る前からじっと私に視線を注いでいた。その目は今まで見たことがない目だった。鋭くて、優しくて、熱くて、真っ直ぐだった。あの人は私と目が合っても、目を逸らさなかった。
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あの人は私を磔にして喜んでいた。私もそれをされて喜んでいた。初めて体を滅茶苦茶にされたときのように、体の奥底がさっきよりも熱くなった。
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