【前回記事を読む】ドライブ中に突然、何かが触れた。あの人の骨ばった手だった。その重みに胸が苦しくなっていると…あの人がタバコの煙を吐きながら笑った。ついに私の心臓は止まった。

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車は田んぼの中の県道を抜けて、高速道路に入った。私はどこに向かっているのかもわからなかった。ただすべてをあの人に委ねた。あの人の運転ならどこに連れて行かれてもよかった。

「どうしたの? 今日は無口だね」

 追い越し車線で車を次々に抜きながら、あの人は片手でハンドルを握ったまま言った。

「もしかしてこんなおじさんと海に行くの後悔してる?」

 あの人の口元に自虐的な笑みが浮かぶのを見て、私は慌てて首を振った。

「後悔なんか全然してないです。ただこういうのははじめてだから緊張しちゃって」

「ドライブはじめてなの?」

「はい。はじめてです」

私はそう言いながら自分はなんて子どもなのだろうと思った。何も知らない小学生と変わらなかった。

「緊張なんてすることないよ。あれだったら椅子倒してもいいよ。まだ先は長いし、ゆっくりくつろいで」

そう言われたが、私は椅子を倒せなかった。代わりに足を少しだけ伸ばした。

何か話そうとしたが、何も浮かんでこなかった。私はあの人を横目で見ながら良い話題はないか探した。するとハンドルを握っていない左手が膝に置かれているのを見て、私はあの夢を思い出した。

「先生、タバコ吸わないんですか?」

学校ではもちろん先生がタバコを吸っている姿を見たことはなかった。でも、私はなぜかあの人はタバコを吸うはずだと思った。そしてその予想は当たった。

「吸うけど、どうして?」

「我慢しているなら吸ってください」

「別に我慢はしてないよ」

私はそれが嘘だとわかった。さっきから左手が落ち着きなく動いていたからだ。