「また連絡するよ。あと、これ、念のためにとっておいて」
私はあの人から白い紙を渡された。何かもわからずポケットにつっこんだが、後で見たらあの人の携帯のアドレスが書いてあった。
もうドライブに行けるか疑う自分はいなかった。が、夢が現実になるとわかった途端、今度は急に不安になった。どうしてあの人は私のためにわざわざ海まで車を出してくれるのだろう。それはデートという意味なのだろうか。それとも純粋に私のチョコへのお礼なのだろうか。そしてもしデートだとしたらあの人は私の気持ちを知っているのだろうか。
いろんな疑問が不安とともに湧き上がってきた。少し前の自分ならあの人と海に行けると知ったら素直に喜べたのに、いざそれが実現すると思うと、なぜか怖かった。それは自分の意思を超えた力で運命が決定されることへの恐怖だったのかもしれない。私は恋愛に不慣れな少女だったのだ。
しかし、約束の日が近づくにつれ、不安は少しずつ消えていった。せっかくあの人と海に行けるのだから思う存分楽しめばいいと思う自分がいた。その先どうなるかなんて考えても無駄だった。私はただあの人にすべてを任せようと決めた。
いつもは大嫌いな春休みが待ち遠しかった。あの人と会えなくなることを恐れる必要はなかった。それに何かあればあの人とすぐに繋がることができるアドレスも知っていた。私は孤独ではなかった。夢はまだ続いていた。
その日、目が覚めたとき、夢で見たのとまったく同じ雲一つない空が窓のカーテンの隙間から見えた。カーテンを開けると、冬の太陽がいつもより眩しく感じられた。私は腕をつねった。痛みが心地良かった。今日は夢が現実の中で叶う日だった。
待ち合わせ場所に選んだのは、家から徒歩十分のところにある公園だった。そこにあの人が車で迎えにきてくれることになっていた。私は家を出るときあの人の携帯に「今出ました」とメールを送った。あの人はもう家を出ただろうか。私の胸の高鳴りはすでに始まっていた。