【前回の記事を読む】「そんな薬は使っていない」被告人は否認した…尿から“成分検出”とされたが、弁護人が鑑定人に聞き出した数値は……
第1章 筆者の経歴
6 筆者が扱った事件の例
(3)初めて国選弁護人として扱った刑事事件(覚せい剤事件)の例
被告人は3月下旬から4月初めころ風邪薬を1回服用したが、前記試験では、市販の風邪薬中に含まれているメチルエフェドリンとの区別が困難である。また被告人の体の代謝の状況によっては、2月9日前に施用した覚せい剤中のフェニルメチルアミノプロパンが4月4日まで被告人の体中に滞留していた可能性も指摘した。
これに対して、高等裁判所は、試料は少量ではあったが、「発色状況は…明確に確認でき」、その他、鑑定人は「覚せい剤の尿鑑定を3000数百件も担当した経験のあるベテランの技術者であることも合わせ考えると、鑑定は信用できる」とした。その結果、2回目の使用は認定できるとした(東京高等裁判所昭和57年10月5日判決)※1。
しかし、科学的には、反応確認限界が5マイクログラムのときに、用いた試料が0.5マイクログラムであれば、発色が青藍色だ橙色だといっても意味がないことになる。
本件の事案としては、次のように考えられる。
もし2回目に覚せい剤を使用していたとしたら、1回目で覚せい剤の使用を認めていたにもかかわらず、反省もなく2回目の使用をしたことになり、極めて悪質ということになる。
2回目の使用がないとすると事態は相当に異なる。
一審(地裁)の裁判官は、鑑定人の証人尋問を行ったにもかかわらず、2回目の使用を疑問なく認め、懲役1年2か月の実刑判決を下した。
筆者は、控訴して、鑑定の信頼性を争った。控訴審(高裁)は、一審判決と同様に、鑑定の信頼性自体は認めたが(これを認めないと他の裁判にも影響する)、一審判決を破棄して執行猶予をつけた。種々の状況も考えたものと推測している。覚せい剤の事案で、一審の実刑がくつがえり、控訴審で執行猶予がついたことは、ほとんどない。
②なお、刑事事件において、捜査における誤りもあり、それが冤(えん)罪(無実の罪)を生むことになる。弁護人は被告人の立場から、証拠の見直し、新たな証拠の収集などを行い、正しい(有利な)判断がなされるように努める。
果たせるかな前記の判決の出た翌々年1984(昭和59)年に、某有名大学教授が、「キムチを食べると体内で覚せい剤が合成される」と新聞発表したために、「キムチの抗弁」ということが問題となった。