はしがき
筆者の主たる関心は技術と社会の関係にある。そして、社会の仕組みは文科系であるので文科系が基礎となる。しかし、文科・理科どちらから出発しても、それぞれの素養が必要なので、本書を「理科的文科人のすすめ」と題した。
本書は、題名は「理科的文科人…」とあっても、特に理科系の人に読んでいただきたいが、文科系の人のためにも素養を高めるために読んでいただきたい。特に理科系について、ある専門分野に秀でることの有用性は否定しないが、本書で文科的事項として述べるところも、職業人、社会人の基本となる素養として読んでいただきたい。
理科系であっても、企業内で年功が進めば、より経営(マネジメント)に関与することになるが、経営は文科系の要因が大きい。
そのため、できるだけ諸制度について広く理解が得られるような項目及び解釈の盲点となるような項目に触れるように努めた。したがって、本書は、従来の「技術経営書」などと異なり、その原理となるところに着目したともいえる。換言すれば、さらに進んだ実務への研さんの基礎に役立ち得よう。
本書は、自然界の法則であるエントロピーの理論とその社会現象への類推適用を、論を進める背景にある考えとする。エントロピーの理論の拠って立つ熱力学は我々の日常感覚に合うも 4 のであり、社会現象も自然現象の一つと解するからである。ただし、この視点に余り拘泥しなくとも読み進められると思われる。
本書の構成の概略を述べると、次のようである。
第1章から第8章は、筆者の理科的及び文科的経験から気付いて得られた知識をその経験を踏まえて述べたものである。第1章は、後の章の理解のために筆者の経歴や経験をやや詳しく述べている。
第2章は本書の背景にあるエントロピーの概念とその理論について述べ、第3章は、本書の前提として、文科系と理科系の特質について考える。
第4、第5章(理科系の人が知っておきたい文科的事項)は、理科系の人が修得すべきまたは念頭に置くとよい文科的事項につき、法律系について述べ、第6章は同じく会計系について述べる。
法律と会計は、社会の規範として、社会のエントロピーの増大を抑えるものといえる。筆者が法律家であるため、法律関係がやや詳しく、基礎となる考え方にも触れた。むしろ、法律に興味を持っていただけたら幸いである。
第7章(文科系の人に役立つ理科的事項)は、反対に文科系の人が念頭に置いて参考にするとよい理科的事項について、やや詳しくなるが、述べる。筆者の技術を見る基礎を示す。筆者の技術論である。
第8章は、上記を踏まえ、文科と理科の融合した分野の例として特許制度について述べる。第9章は、筆者の技術についての見方(技術論)から得られた知見を示す。これは、本書で筆者が述べる技術論が、開発に向けたものであることを端的に示す。