【前回の記事を読む】「向こうはマンギャン族の世界なんですよ」錆びて腐りかけた吊り橋を渡ると、埃っぽい集落の奥に“ピンクの異様な建物”が立っていて…
3 NGOカラバオ・精霊伝説
休日の学校の教室を利用して、トニー、ウェンディと他のスタッフとが手際よく机と椅子を寄せて即席の舞台が設えられると、現地人のスタッフが担いできた重い段ボール箱が二つ並べられ、吉田から集落の代表者への援助品贈呈式が執り行われた。
式とはいっても、援助品のノートや鉛筆、クレヨンなどの文具品が詰まった段ボール箱を前に、吉田と集落の代表者が握手している写真を何枚か撮っただけである。
次いで教室の隅に簡単な診察コーナーが確保された。ウェンディに促されて木田は小さな椅子に腰掛けて子供たちが前に並ぶのを待つ。周囲では子供たちばかりではなく、物珍しげに集まって来たマンギャン族の人々の嬌声が満ちて、とても聴診する環境ではないが、それでも促されるままに木田は次々彼らの助骨の浮き出た薄い胸に聴診器を当てていく。
隣ではウェンディが木田には皆目分からない現地の言葉で盛んに彼らに語り続け、というより木田には叱りつけながらのように聞こえたが、二日前に現地の担当者に接種されたツベルクリン痕の発赤班をメジャー片手に測定していく。それを現地人のスタッフがノートに記録していく。トニーは相変わらず、カメラのシャッターを切り続けている。
日本では核酸増幅法[1]だのγインターフェロン測定[2]だのと、採痰、採血で簡単に結核の診断をつける方法が広まって、最近では病院でツベルクリン検査を見かける機会はなくなったが、健康診断のスクリーニングとしては未だ未だ有効だし、木田にとっては久しぶりに懐かしい旧友に遭遇したような気分だった。
マンギャン族には結核患者が多く、充分な医療も受けられないまま亡くなっていく老人や子供が少なくないのだと、ここへの道々、唸りをあげる四輪駆動車のエンジン音に負けない大声で、吉田が木田に説明してくれた。
とてもレントゲン撮影まではできないが、せめてもとNGOで集めた結核診断用のツベルクリン試薬を現地の大学、行政機関に寄付して、合同で一部の地域で実験的に子供たちに接種する研究事業を始めたのだそうだ。それでも、今回ツベルクリンの判定を受けていたのは集落の子供たち全員ではなかったように見える。
一体どういう基準で接種対象者を選別しているのか。そもそもこの合同研究とやらの研究デザインとはどのようなものなのだろうか。
木田には疑問だらけだが、もともとこの活動自体に興味があるわけではないし、あまり深く考えない方が良さそうだと、無理やり自分を納得させてしまった。