「左様(さよう)、結界でござる。結界とは、聖なる領域とそうでない領域を区切るもの、一線を引き区切るものでござる。主に行っているものが封印呪(ふういんしゅ)じゃ、封印呪は邪気を区切って封印し、閉じ込めるもの。結界の修法(しゅほう)も真言密教系、陰陽師(おんみょうじ)系、修験系と様々ある」

孝明は口数少ないようで、黙ったままあご髭を撫でていた。

冬星は初めて北斗七星舎と名乗る者に会い、運命的なものを感じた。自身の古巣であった軒猿毘沙門衆の秘密の鍵を握っていることを、即座に感じ取った。

「冬星殿、わしら北斗七星舎はおぬしを必要としておる。本日はおぬしをお迎えに参ったのじゃ。これからとてつもない戦いが始まるゆえ、是非とも力をお貸しいただきたい」

堂心が大きな体をかがめ、深々と頭を下げた。

離れた場所からこの光景を覗き見る小さい影があった。義近である。

義近は唖然としていた。又五郎に町まで逃げろと言われたが、気になって引き返してきたのである。軒猿毘沙門衆の強烈な幻道波術を目の当たりにし、小さな胸は高鳴っていた。

(なんという威力だ、なんという術だ、なんという忍びなんだ!)

視線に気づいた堂心は、腹の底から出るような大声で叫んだ。

「おーーい、童(わらし)っこ! そこに隠れていないでこっちに来い。礼を申すぞーー」

義近は、びくっとして背筋が伸びた。一行の視線がこちらに向けられている。覗き見を叱られるのではないかと心配したが、まったくその気配はないようである。義近は恐る恐る前に出てきた。

堂心が義近の頭を撫でながら目を細めた。

「童っこ、おまえは蓮華衆の者だな。よくこの務めを果たしてくれた。箱は無事に受け取ったぞ。わしから礼を言う。褒美は後ほど届けさせる、ご苦労だった。さあ、もう家へ帰っていいぞ」

義近はぽかんとして呆気に取られていた。

まさかこの坊さんたちが、箱の受け取り人だったとは意外だった。坂本の寺へ届けることしか聞いていなかったからだ。もう何が何だかわからなくなっていた。ただ、目の前で見た軒猿毘沙門衆の術が衝撃的で、頭がいっぱいだった。

「おいら、おいら、死に物狂いでこの箱を守った。源じいの約束を守った。だども源じいは死んじまった……。おいらは一人になっちまった。家に帰っても誰もいねぇ」

「なに、篠の源三郎は亡くなったのか! なんとも惜しい男を失ったものだ……。わしも若かりしとき、源三郎から生き方の要諦を学ばせてもらったものじゃ」堂心は丸めた頭をさすりながら、悔やむように吐き捨てた。

 

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