【前回の記事を読む】「ぎゃあああ!」滝音に紛れて放たれた小斧…伝説の忍びを追い詰めたくノ一の左耳が吹き飛び…首から赤黒い液体が滴った。
第二章 北斗七星舎(ほくとしちせいしゃ)
又五郎は咄嗟に細い木の幹に身を隠したが、跳ね返ってきた多量の爆薬玉の欠片(かけら)がいくつか身体にめり込んだ。
「ぐうっ」
又五郎が苦痛に顔をゆがめ、膝をついた。
亜摩利は止(とど)めを刺そうと、さらに懐から先ほどの倍ほどの鼠籠包を握り、下に向かって投げてきた。
「これで最後だ!」
そのとき、下から巻き上がるような強い風が立ち昇った。
ゴワーー
突風だった。
投げつけた無数の鼠籠包は風に巻き上げられ、逆流して亜摩利に向かって吹きつけられた。
鼠籠包は樹上の亜摩利の周りで一斉に爆裂した。
「ぐぇぇっ!」
爆裂玉は亜摩利を取り囲むようにして爆(は)ぜ、鮮血と旋風が渦巻いた。
凄(すさ)まじい煙に巻かれ、亜摩利は血だるまになって樹上から落下していった。
直後また突風が吹き、今度は真横からの激しい風に煽られ、亜摩利は八間(十四メートル程)先まで吹き飛ばされた。まるでコマのように勢いよく大木に叩きつけられた。
風は嘘のようにぴたりとやみ、何事もなかったかのようにおさまった。
「おーい、冬星! 大丈夫かーー」
遠くで男の声がした。それは又五郎にはとても懐かしい声であった。森の奥から錆浅黄色(さびあさぎいろ)の筒袖(つつそで)を着た、すらりとした男が走ってきた。
「久しぶりだな冬星、何年ぶりや。捜したでぇ」
「銀(ぎん)、おまえだったのか、助けてくれたのは」
先ほどの突風は、軒猿毘沙門衆『鼬風(いたちかぜ)の銀』の幻道波術、『裂葉風(れつようふう)』であった。
「よくここがわかったな」
「あの坊さんたちのお導きってやつだ。しかしもう二年ぶりか、おまえも髭面(ひげづら)のおっさんになったんやな」
銀とともに、首から輪袈裟(わげさ)を掛けた修行僧らしき二人の僧侶が随行してきた。その陰に大きな巨体が揺れた。同じ軒猿毘沙門衆の不動(ふどう)も一緒である。
「ところで、こんな三下連中相手におまえらしくもない。いつもの幻道波術でこてんぱんに熨(の)しちまえば簡単やないか」
又五郎、いや冬星の顔が曇った。
後ろから体格の良い僧侶がグイと錫杖を押して前に出てきた。齢四十過ぎであろうか。
「これは冬星殿、お初にお目にかかる。わしは北斗七星舎(ほくとしちせいしゃ)の者で、表向きには公界僧(くかいそう)として娑婆(しゃば)を行脚している如法界堂心(にょほうかいどうしん)じゃ。おぬしら軒猿毘沙門衆の秘術はわしらの真言密教秘術がもとじゃ。とにかく箱を無事に届けていただき礼を申す」
その隣に、小柄で痩せた僧侶も立っていた。白いあご髭が目に入った。
「こちらは文殊院孝明(もんじゅいんこうめい)と申し、わしと同じく北斗七星舎の者。おぬしらのように幻道波術は使えぬが、『結界(けっかい)』を張る結界師でもある」
「結界?」