【前回の記事を読む】妻を亡くし、ひとりで始めた子育て…助けを求められる相手は1人もいなかった。ダメ元で男性上司に電話すると、「俺に聞くな」と笑いながらも…

5.

『渉へ。

いつか渉がこれを読むことがあったら、伝えたいことがある。

あなたと出会えてよかった。これだけは、絶対に忘れないでほしい。

渉はよく「俺みたいな人間が」と言う。私は渉のそういうところも大好き。独りで傷ついてきたからこそ、人の痛みがわかる人だから。

でも、だからこそ、もしも私がいなくなってしまったら、渉は、またひとりになったって思ってしまうかもしれない。

もしそう思ってしまっていたら、それは違うよ。渉はもう大丈夫なんだよ、って言ってあげたい。

赤ちゃんの名前にしようと思ってる「葵」は、二葉葵から取りました。

二葉葵は、どんな時も必ず二枚の葉っぱが対になって、寄り添うように芽を出すんだって。一枚だけで立つことはなくて、お互いを守るみたいに、ずっと並んで生えてくるの。そしてその二枚の葉に守られるように、小さな花を咲かせるんだって。

二枚の葉っぱが私と渉、産まれてくるこの子が花なら、ぴったりだなって思ったの。

でも、こうも考えた。この子と渉が、あの二枚の葉っぱなんだって。

私があなたの隣にいられなくなっても、この子が私の代わりに、渉の「もう一枚の葉」になってくれる。二人で寄り添って、支え合っていける。だから渉は、二度とひとりぼっちにはならないんだよ。

そして、私は花になる。二葉葵の花は、上からパッと見ただけじゃ気づけないくらい、ひっそりと、でもしっかりと足元で咲いているんだって。

目に見えなくなっても、私が渉を愛した事実は絶対に消えないよ。この子の命の中に、そして渉の心の中に、ずっと葉陰の花みたいに咲き続ける。私がいなくなっても、その愛だけは永遠にそこにあるの。

渉。私を愛してくれてありがとう。自分はひとりぼっちだなんて、もう二度と言わないでね。私が命をかけてこの世に残した、愛の証であるこの子を、どうか抱きしめてあげてください。

私のかわいい二枚の葉っぱが、これから温かい光をたくさん浴びて生きていけますように。

愛しています。』

渉は日記を閉じた。

声を殺して、泣いた。テーブルに額を当てて、肩を震わせた。

千春の言葉が、胸の奥に染み込んでいった。

隣の部屋で、葵が眠っていた。小さな寝息が聞こえていた。

渉はしばらく泣いてから、顔を上げた。日記をそっと閉じて、千春の写真の隣に置いた。

「葵、お母さんの日記があったぞ」

葵は眠ったままだった。

「大きくなったら、一緒に読もうな」