「まあ、そう結論を急ぐな。それよりさっき私が出した宿題の答えは分かったかね」
「ああ、あのハムレットを殺した真犯人は誰かってやつですか? もう、この際どうでもよくなりましたけどね」
「何だと! せっかくシェイクスピアがこの事件の鍵を教えてくれているというのに、何だ、その態度は!」
天蓋が恐ろしい剣幕で高井良に詰め寄った。
「わ、分かりましたよ。でも、黒幕って言ってもクローディアスくらいしか思いつかないんですよね。だって、ハムレットに決闘を申し込むようレアティーズを唆したのも彼だし、毒杯を用意したのも彼ですから」
「君は刑事になるよりも文学者を志すべきだったな」
「どういう意味ですか」
「確かに文学的な考察では君が言う通りでよいだろう。だが、さっきも述べた通りシェイクスピアは世界初のミステリー作家だ。彼は『ハムレット』をミステリー作品としても楽しめるようにトリックを仕掛けたのだ。私のような優れた炯眼(けいがん)を持つ者しか気づかないようなトリックを。残念ながら君にはそれは期待できないようだがな」
「何か天蓋さん、僕のことを目の敵にしてませんか? ひょっとして僕が東大卒だからですか? まさか学歴コンプレックス?」
「まさか。東大卒でもぼんくらな連中を私は嫌というほど見てきた。そんな連中に私がコンプレックスを抱くわけないだろう」
天蓋は引き攣った笑みを口元に浮かべながら言った。
「どうだか。分かりました。降参です。答えを教えてください」
「よろしい。そこまで言うのなら教えてやろう。私が『ハムレット』に違和感を覚えたのはハムレット王の亡霊の告白の部分だ。何故ならあの亡霊は嘘をついたからだ」
「嘘?」
天蓋は気を取り直したかのように胸を張った。
「ああ。亡霊は自分が庭で昼寝をしている時にクローディアスが近づき、耳の孔にヘボナという猛毒を注いだので一瞬にして命を奪われたと言った」
「それがどうしたと言うんです」
「高井良君、そこの床に横向きに寝転がってみたまえ」
「え、こうですか?」
高井良は天蓋の指示におとなしく従い、体の左側を下にして床に横たわった。天蓋が背後から近づき、いきなり彼の右耳にペットボトルの水を注いだ。
「わっ! 何するんですか!」
高井良は跳び起きて、頭を振って右耳の水を振り落としながら天蓋に抗議した。
次回更新は10月7日(水)、21時の予定です。
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