【前回記事を読む】断酒に成功し、別人のような顔つきで帰ってきた夫…しかしテレビを見ているうちに目つきが変わり、「酒を買ってこい」と詰め寄り……

マーガレットお婆さん

「でも、わたし不自由な体だから、無理すると途端にどこかに痛みが出てくるのね。疲れ果ててしばらく寝込んでしまったこともある。

その間、施設の夫は憔悴しきって食事を摂らなくなったの。わたしは体の具合が悪かったけど、毎日お食事を作って施設へ持参することにしたの」

お婆さんは記憶をたどって、当時のことを思い描いているようだった。

「わたしが作った食事なら夫は口にするのだけど、施設が提供する食事には一切手をつけなくなった。買い物に行くのも足が不自由だから、やすやすとできることではなかった。

ヘルパーさんに物置から出してもらった乳母車を頼りに歩いて、市場へ行くの。食材を買い込んで家でお食事を作る。毎日朝昼晩三食分作るのね」

「夫の体は徐々に衰弱していったけど、施設のスタッフがクルマで通勤する道すがら、わたしの家の前でピックアップしてくれたの。

わたしが作った食事を毎日施設に届けられるようになった。夫は美味しそうに食べてくれたわ。嬉しかった」

「夫はわたしの手作りのお食事の甲斐もあってか一時的に回復の兆しを見せたけど、体の衰弱は体の内部で徐々に進行していったわ。

そして食事を届けお昼をいっしょに食べた翌日の朝、陽が昇らぬ前に、誰にも看取られることなく帰らぬ人となったの。わたしは死に目に会えなかった」

「三人の子どもたちと、それからお友達の何人かが協力してくれて、無事教会でお葬式ができたの……」

マーガレットお婆さんの目は虚ろになった。俯いて喋るのをやめた。でも深い息をして話を続けようとした。いつのまにか娘のエリザベスが隣に座っていた。

「もう遅いから部屋に戻りましょう」と母親を促し、二人は部屋へ戻っていった。