真夜中、眠れない。部屋の外へ出るとマーガレットお婆さんがぽつんとソファに座っていた。
「怖くて眠れない」と訴えかけてきた。
「大丈夫よ、マーガレットさん、わたしがそばについていてあげるわ」
「ありがとう」と言って、お婆さんは手を震わせながら煙草に火を点けた。
「いつもは吸わないんだけど、眠れない時だけ煙草を吸うの。娘には言わないでね」
煙草の煙が火の点いた煙草の先から出ていく。薄青紫の煙が夜の風のない空間を漂っている。
「夫が亡くなってから、空っぽの状態のまま、時間が過ぎていったわ。ずっと家の中にいるものだから、エリザベスが心配して旅行に連れ出してくれたの」
「リズが掘り出し物を見つけ、それをオークションに出したら、ちょっとした『大金』が手に入ったの。宝籤くじが当たったみたいなものね。
神様に感謝しているわ。神様はずっと見捨てないで見ていて下さったのね」
「上の娘のアンに娘がいてね─わたしの孫ジェーンっていうのだけど─美大に通っているのね。最初は芸術家志望だったけど、今は美術教師になりたいって。人生は安全な道のりの方がきっといいと思う」
お婆さんは孫の話をする時、眼が輝いていた。
「上げ膳据え膳、洗濯もベッドメイキングもしなくていいの。ここは天国だわ。長い間のあの苦労は何だったんだろうって、心からそう思えたわ」とお婆さんは過去を現在と比べて述懐した。
「マーガレットさん、わたし、気になっているの。聞いたら悪いことかもしれないけど、どうして暴力を振るう夫と別れなかったの?」