高校2年になっても、何も変わらなかった。いや、むしろ悪くなった。
絵里子は渉に家事のほぼすべてを押しつけるようになった。朝はトイレ掃除と悠斗の小学校の準備を手伝い、夜は風呂を洗い、食器を洗い、洗濯物を畳む。
台所の食器を片づける音、廊下を歩く足音、ドアの閉め方。すべてが渉への音による暴力だった。
部活には入れなかった。帰りが遅くなると「何時だと思ってるの」と言われた。友達と遊ぶ約束も、何度か断るうちに誰も誘ってこなくなった。
お金もなかった。父の遺産は絵里子が管理していた。渉への小遣いは月2,000円だった。
修学旅行の積み立ても「うちにはそんな余裕はない」と言われた。担任の先生が「奨学金もあります」「学校で立て替えます」と食い下がってくれた。それでも絵里子は「家庭の事情です」の一点張りで電話を切った。
渉だけが修学旅行に行かなかった。クラスメイトたちが空港行きのバスに乗り込んでいくのを、渉は誰もいない教室の窓から見ていた。
(俺だけが、置いてかれる)
ガラスが冷たかった。それでも、その冷たさだけが、自分のためにあるものだった。
昼休み、渉の弁当は、いつもコッペパン1個か、何も持っていない日もあった。学校の中庭にプランターがあった。ミニトマトが植えられていた。渉は誰もいない時間にそっと小さな実をもいだ。指でぬぐって、口に入れた。青臭くて、甘くも酸っぱくもなかった。それでも、何かを食べたという感覚があった。
次回更新は9月10日(木)、22時の予定です。
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