【前回記事を読む】深夜、食事を与えると突然豹変。牙を剥き、唸りながら飛びかかろうとする…家族を部屋へ避難させ、声をかけても、もう私のことが分からず…

悲しみの底で見つけたもの~猫さんが生きた八十九日間の記録

四月二十六日(土)

夕飯を外で済まして二十一時過ぎに帰ると、ケージ越しに猫さんと目が合った。怒りが少しだけ沈静化したように見える。もしかしたら、と思いちゅーるを柵越しにそっと差し出してみる。最初、戸惑っていたが、やがて食べ始めた。ほんの数口だが、食べた。

「黒毛和牛(味を)食べたよ!」

私は、部屋で子どもの世話をしている妻に、泣きながら叫ぶ。水の皿が空になっていた。猫さんをケージに入れる時にひっくり返してしまったのだ。留守中にどうやら猫さんが皿を元に戻したらしいが、水はこぼれて空だった。水を補充してやらないと。

まだ彼女の怒りはくすぶっていたが、勇気を出してシリンジに入れた水を、外からそっと皿に注ぐ。すると、飲んだ。ピチャピチャと音を立てて! 少なくとも12、3mlは飲んでくれた。死ぬ前に水も飲めないなんて可哀相だ。それが気がかりだったのだ。やっと喉を潤せたのだ。

二十三時、怒りは少なくなっていて、目で会話ができた。ケージは開けられないが、皿に外から水を注ぐと怒らずに飲んでくれる。今度は大量に。70mlは飲んでくれただろう。少し時間を空けてちゅーるを与えてみる。すると一本食べてくれた。

ここで少し欲が出てきた。もしかしたら汚れたケージ内の清掃もできるかもしれない。一日ケージ内にいた猫さんは何度かお漏らしをしていて、体からもケージからも悪臭を放っていた。汚れたまま、便や尿にまみれて死なせたくはない。再び私は被弾の覚悟を決めた。

ちゅーるで注意を引きつけつつ、ケージの外から少しずつ彼女の体に触る。怒らない事を確認し、思い切ってケージから出して抱っこした。私が猫さんをシャンプータオルで拭き、妻がケージ内の清掃を手早く行った。猫さんは拭いても拭いても黒い汚れが取れなかったが、それでも多少はきれいになり、元の茶色と白の色彩が見えてきた。

ケージ内は大量の便が床を覆っていた。しかも真っ黒なタール便だ。きっと消化管で大量出血をしたのだ。可哀相に、辛かっただろうに。きっと便秘と出血と尿毒症で三重に苦しかったのだ。苦しくて苦しくて、自分を見失っていたのだ。

汚れていたお皿も洗って、水とご飯を大量に入れてあげた。もう、正気に戻る事は無いかもしれない。次に怒ったらお世話ができないかもしれないので、ご飯は山盛りに、お水はなみなみと入れる。

体や脳からくる辛さを克服した猫さんを、私は誇りに思う。私の自慢の猫さんだ。それは可愛いからではなく、本当の強さを示してくれたからだ。しかもこの日は私の誕生日。この日を生き延びてくれた。絶対にこの日に逝ってしまうと思っていたのに。

この日の飲水80ml。栄養は30キロカロリーだった。排尿ははっきりと分かるもので二回、排便は下痢が二回だった。