【前回の記事を読む】「ご嫡子殿の件でございますが…」と話し始めた官人に、源高明が「愚か者!」と一喝した理由。親子だからではなく…

秋。政策

今日は、訪問者が多い一日であると高明は感じていた。これでは、ゆっくり文の文面を考える事も出来なかった。

大蔵種材に次いで、村主三太夫殊マムシが訪ねてきた。

これは、隠岐の藤原千晴卿に依頼されていた太刀がそろそろ、『出来上がった』と云う報告であろう。と、算段していた。しかしこれは全くでもないが、見当外れであった。

「権帥に申し上げます」

マムシは何時も以上に遜(へりくだ)って官位ではなく役職で自身を伺候して呼んだ。しかも身形もいつもの作業着ではなく、地位に応じた正装であった。

「村主よ、如何した」

高明も、仕方なく、いつも呼ぶ通称のマムシや三太夫ではなく、正しい名前(官位を彼は、未だ持って無かった)で、彼を呼んだ。

こう云う状況や言い様では、本音は引き出せない。彼は、今日は観念した。

「はっ、実は、某の娘と忠賢様が、藤原様の太刀の材料を探しに行く途中で、獣に再度襲われた様で、再び娘は忠賢様に救われたそうです。今日は、そのお礼を正式に言上する為に罷り越しました」

「左様な事があったのか」

「はっ、ただ、それだけでは済まないようで」

「それだけで済まぬ? 何事か?」

「はっ、まぁ此処の処、昼間、娘も忠賢様と砂鉄を探しに毎日山へ向かっているだけではなく、その日以降、娘の所に夜這う貴人がございまして。多分ご子息と拝察しております」

「然様か。文の遣り取りもなくか」

高明は、笑いながら、全てを把握した。そう言えば、ここの処、息子は、自身と、夕餉を共に取らなくなっていた。全てが腑に落ちた。

「畏れ入り奉ります」

マムシも、娘が“貴公子と文や歌の遣り取りをする様な女では無い”事は、先刻承知だったので、こう答えるしかなかった。

「して、如何程入用じゃ?」