高明の回答は素早く、マムシの算段通りであった。

「はっ、離れの増築費用をご用立て戴ければ、十分でございます」

「離れとな? その方の館には、離れが無い。と申すのか?」

この事実こそ、高明には、驚愕であった。

「はっ、既に大工には作らせておりますが、作業場に、頂いた資金の“ほぼ全て”を注ぎ込みました関係上、館には手が回らず、母屋のみの、あばら家が、限界でして。

斯様な次第になったので、支払いはともかく急遽、と、言うのが実情でございます。その支払いが、その期日が、今日でございまして」

「然様か、では、算出は、終わっているのだな。判った入用な額だけ遣わす」

「して“離れ”の進捗は?」

「はっ、粗方終わっておりますが、未だ完成は、しておりませぬ。が、娘は、既に離れに移らせております」

「然様か結構」

マムシは、予想外の額を高明から拝領した。

高明が、百足と嫡男が“出来る”事は、父として、予め織り込み済みであった事が、これでハッキリした。

一方で身分違いの組み合わせを“百足の父”として不安視していたが、この高明の行為は、マムシを安心させた。

その後、程なくして、百足の離れには、高明より文を遣わされた都の妻(右大臣、藤原師輔の娘)が選んだ大量の調度品が送られて来る事となった。

しかし、罰当たりな、百足は、それら調度品が送られてくる意図が何なのか、皆目見当がつかなかった。煌びやかに装飾されているが故に、下手な使い方をして、傷でもつけてしまえば(多分)当地で修理は適わず、取り返しが付かない、大事になるだろう。

その様な、都で使われている様な“調度品”や、貴人の用いる“衣”ばかりで、用途が理解出来ても、使い辛い、モノばかりであった。