法要が始まって小半時ほどが経ち、読経が金剛経に移って間もなく、突然周囲に閃光が走り、耳を裂くような轟音とともに、墓のすぐ後ろにそびえている巨大な杉の木に雷が落ちました。
高さ十丈、樹齢は三百年もあろうかという巨木は頂から二つに裂け、その片割れが凄まじい地響きを立てて宗佐のすぐ傍らに倒れてきました。
しかし彼はそうした異変を意に介する様子も見せず、ただひたすらおのれの吹く笛に心を注ぎ込み続けました。
もしも姫の魂が成仏されるなら、たとえその後を追うことになったとしても、元より本望だという思いが、初めから彼の中には居座っていたのです。
この時宗佐の吹いた笛は、彼が後にも先にも二度と吹くことのないような、鬼気迫るという表現に相応しい、全く例のないものでした。
宗佐の渾身の笛の音が響き、朗々と拓善の経が読み続けられる中、相変わらず雨は叩き付け、風は荒れ狂い、雷鳴は轟き続けました。
……法要が始まってから半時ほどが経ち、読経の終わりを告げる普回向(ふえこう)が読み始められ、木魚の音が止み、ひと際長い余韻を引いて磬が高く鳴り響いた時、身も心も疲れ果てた宗佐は握った笛をだらりと下げ、肩で荒い息をつきながら、全身ずぶ濡れになって呆然と立ち尽くしていました。
その頃には雷は鳴り止み、雨は上がり、風は収まり、闇夜のようだった空は薄水色に晴れ渡り、葉陰に隠れていた小鳥たちは再びさえずりを始め、遥かに望む千代田のお城の方には、鮮やかな虹がかかっていました。
「宗佐よ、沙代里姫は成仏遊ばされた」
拓善が静かに告げました。それを聞いた宗佐はくずおれるようにひざまずき、胸の前でしかと両手を合わせ、来世での沙代里姫の魂の平安を深々と祈りました。
それに応えるように、墓前に挿された一本の白百合の先から、雫が一つこぼれ落ちました
……まるで姫の最後の涙のように。