【前回の記事を読む】施設への入居当日、玄関をふさいだ義母…娘がドアに手をかけた瞬間、「絶対行かないからッ!!」と豹変。腕に爪を立て、血が滲んでも手を離さず…

第3章 認知症

暴力

私はすぐさま間に入って二人を引き離そうとするが、母の力は七十歳を超えた女性とは思えないほど強く、妻を離さない。

母の爪が食い込んだ妻の腕からは血が流れ始める。私もかなり力を入れて妻を羽交い締めにする腕を振りほどこうとするが、余計に母の爪が食い込み、血が流れる一方だ。

母は一向に力を緩めない。

母は娘に何をしているか理解できているのだろうか。

腕からは血を流し、胸ぐらを押し込まれて卒倒しそうになりながら「やめて」と懇願しつづける娘は、母の目にどう映っているのか。

母なりの言い分はもちろんあるだろう。納得いかないことで瞬間的に怒りが表に出てしまい、暴力的な衝動にかられることはよくあることだ。

でもその瞬間的な怒りに対してすぐに理性が働き出し、自分自身がやってしまったことを理解し、道徳心から怒りを徐々に鎮めていくものではないだろうか。

しかし、母の暴力的行動は収まる様子がない。まるで自分の縄張りを脅かす他の生き物を徹底的に排除する行動のように私の目には映る。

言葉でその場を収拾することは不可能と思った瞬間、ためらいながらも私は母の顔を平手打ちした。強く叩いたわけではない。

母が驚く程度に、ぱちんと響く程度だ。

平手打ちされた母は驚き、妻を離し、その場にしゃがみ込み、うなだれた。そして嘆く。

「あんたたちは本当に迷惑でしかない、もう帰ってください」

一旦その場は収まった。妻をすぐリビングに連れていき、爪が食い込み血が出ている傷口を止血した。

妻は放心状態だ。そして私には罪の意識が重くのしかかった。

事情がどうあれ人様の母親、しかも高齢な母親に手を上げてしまったのだ。

私は軽率な行動を取ったのではないか? 他にいい方法があったのではないか?と自責の念に駆られた。