【前回記事を読む】4年も続いた奇妙な体制…非正規の部下が働き続ける一方、正社員の管理職は会議だけ張り切って大声を張っていた…その訳は
第一章 幸せなおじさんたちの罪
―崩壊する「科学技術立国」の現場
必敗の大企業文化
G氏はV氏に服従できる人だった。私も日頃はV氏のプライドに配慮しておとなしくしていたが、最低限必要な言葉は発せざるを得ず、自信のないV氏と仕事上の必要を優先する私が円満な関係を築くのは難しかった。その点でG氏は彼にとって安心のできる部下であり、G氏のほうも素直に彼に従う日々を送っていた。
G氏が私と違ってV氏に簡単に従えるのは、まず専門や経験の違いが理由として大きかった。実学的な考え方が乏しいために彼は取り組んでいる課題の意義や難しさを理解できず、V氏の限界を見抜く判断力も持ち合わせていなかった。
そして上の力不足を埋め合わせる経験をおそらく過去にしておらず、上の指示通りに従う働き方を疑問に思わないまま、彼は三十歳前後の社会人になっていた。
さらにG氏が積極的に服従の態度を示すのは、V氏の性格を考えれば当然といえる事情があった。
下に少しでも反論されるとヒステリーを高い確率で起こすV氏の態度は、ボクのプライドを傷つけた者はクビだぞと日頃から宣言しているのと同じであり、実際にX社が完全に消滅したときに雇用契約を延長できなかった唯一の社員は、V氏と普通に仕事上の議論をしようとして彼を怒らせていた人であった。
服従しない部下を見せしめにする人間が上にいれば、非正規は沈黙するほうが明らかに無難だった。
能力や経験の不足、V氏の感情への配慮、いずれが理由として重要なのかを本人に訊(き)いてみたいと思いながら私はG氏と同じ部屋で働いていた。
彼も私も休日に出勤することが多く、交通費も出ない派遣社員が休みの日にタダ働きをしているのは大学にいた頃からの習慣だと思えばそれは私も同様であったが、V氏の下で熱心に働くことの意味について彼が考えている気配がないのが私には不思議であった。
G氏の本心を聞き出せないままY社で二年ほど経った頃、私たちのチームが主役のテーマ提案会があった。
私は以前から温めてきた構想について述べ、他にV氏の指導を受けたG氏など三人がそれぞれテーマを発表した。
採択されたのは私の提案だったが、G氏たちが発表した三題はスケールが小さいうえに実施案をつくれないほど方法と目的が分裂しており、選ばれなかったのは順当な結果だと言わざるを得ず、私はあらためてV氏を選んだZ氏の判断力の乏しさと罪の重さについて思った。