【前回の記事を読む】「50万円未満は全額払う。それ以上は90%免除を」…使途不明金や闇金取引を疑われた社長の再建案を聞き、黙っていた下請け社長が…
第1章 債権者集会
債権者集会
松葉は、神妙な顔をして応えた。
「誠に申し訳ございません。実は、鹿児島第一銀行さんが関東工場の稼働が遅れ、バブルが弾けた状況を見て、会長の保証をくれ、会長の担保を新たに出して欲しい、と言って来られ、また鹿児島第一銀行さんも直接会長と話の場を持たれたようでしたが、
『自分には何らの相談も報告も受けていない。銀行側に何らかの不安があったのなら、融資契約時に、しかるべき相談があっても良さそうだが、何もなかった。
ことこの場に及んで、会長の保証、担保提供をしてくれ、などと契約書にも書いてないことを要求するのはおかしいのではないか。
あとで聞いた話だが、6行協調融資を提案したのは鹿児島第一銀行さんだったそうだが、なのに最初に騒ぎ立てて、このような事態を招いてしまった。
長い取引だったが、こんなことになって残念だ』
ということで、支援が得られませんでした」
会長の支援が得られなかったのには、それなりの理由があってのことだ、と説明した。
もし、融資について、何かあっての要求ならば、詳しい説明があってしかるべきではないか。ただ単に、状況が変わったからだ、という説明では納得がいかない。
立場の弱い債務者に無理強いするのは、地域経済を預かる金融機関の取るべき態度ではないのではないか、という会長の考えに、松葉もある種の共感を覚えていた。
そんな理不尽な振舞に同意はできない、私自身も、会長の方が、筋が通っている。例え破滅への道を突き進むことになっても仕方がない、と松葉もいつの間にかそう思うようになっていた、いつしか、松葉に特攻精神にも似た感情が湧き起こっていたのかもしれない。
とても会長にそんなことは頼めない、という気持ちになっていた。また、自分が会長の立場であったとしてもそうしただろう、と言いたかった。
しかし、ここではそれは言えなかった。なぜなら、金融機関との事業用資産の別除権協定が残されていたからだ。
担保に入れていた資産を再建のために事業用として使用する場合には、個別に協定書を結ばなければならない。もし、拒否されるようなことになったら、再生そのものが立ち行かなくなってくる。金融機関を逆なでするようなことは差し控えたかった。