「さすがに実の妹君、軽大郎女(かるのおおいらつめ)との色恋沙汰が世間の知るところとなった以上、大王としてこの倭国を治めることは難しかろう。何とも愚かなことよ」

「それでは次の大王はやはり……」

ここまで話しかけたところで、昨今頭角を現しつつある大伴室屋連(おおとものむろやのむらじ)が通りかかった。

「これはまた、葛城のお二方、このたびは先例に懲りて早々のお見舞いですかな」

室屋は自らの長くもない顎ひげを撫でながら、皮肉交じりに言った。

「大王のご不例とあれば速やかに参上するのが我らの務め、そなたにとやかく言われる筋合いはない」

円は触れられたくない一族の過去をもち出され、一瞬頭に血が上ったが、努めて冷静さを装った。

室屋の言う先例とは、前大王(反正(はんぜい)天皇)の葬儀の際、円の父、タマダノスクネが埋葬までの長い期間、遺体を仮安置し、さまざまな儀式をもって死者の復活を願う「殯(もがり)」の長を任ぜられたものの、その職務を途中で怠り、たまたま起こった地震を機に地元の高宮で酒宴を開いていたことが発覚し、これに怒った大王の軍によって粛清された事件を指している。

もっとも、一族の長であるタマダノスクネが殯宮に長期間侍り続けることなど到底不可能なことで、おそらくはこれも今、命尽きなんとする現大王の策略であり、同時に葛城一族の繁栄を恨む豪族たちによる計略であったに違いなかった。

しかし、タマダノスクネを失脚させた後も、大王は、なお強大な力を有する葛城一族に配慮せざるを得ず、円には引き続き大臣の要職を与えていた。


※大臣 古代日本において有力な氏族に与えられた姓かばねと呼ばれる一種の爵位 臣(オミ)、君(キミ)、連(ムラジ)、直(アタイ)、造(ミヤツコ)、首(オビト)と続く。臣、連には格上を示す「大」がつく。

 

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