【前回の記事を読む】100%諦めていた大手メーカーになぜか合格し、採用理由が分からないまま入社。だがCEOの話で「人選ミス」だと気づいた

ホームランとフォーマルハウト

この冬彼は、妹のユカちゃんとともに、度々水口さん宅にお邪魔していたそうだ。知らない間に彼らの親交は深まっていたらしい。一度も呼ばれなかったのは寂しいけれど、忘れ去られていなかったのは正直嬉しかった。

そっと開けたつもりが、木戸はギイと音を立てた。多くの顔が振り返る。庭の中はたくさんの子供でいっぱいだった。ざっと十人ほどだろうか、少数だけど大人もいる。回覧板のおばさんまでいるのには驚いた。

庭の中央、ドブソニアン望遠鏡に張り付いているのはアツシくんだ。取り巻く人たちに彼が星の説明をしているらしい。得意げな表情がちょっと小生意気だ。その横でこちらに手を振るのは、ユカちゃんと水口さんの二人だ。

「何事ですか、これは」

近づいていって尋ねると、嬉々とした水口さんが答えた。

「よう来た。新星を見つける会といってね、賑やかにやっているよ」

ここではなんだから、と言って濡れ縁まで誘う。彼の着る綿入り半纏の裾を、ユカちゃんの右手がキュッと掴む。いつの間にこんなに馴染んだのだろう、とわたしは訝しんだ。彼女の左の手にはお菓子の入った透明なビニール袋がある。他の子供たちも同じ袋を持っている。参加してくれたご褒美なのだろう。

「篤くんが来るたびに連れてくる友達が増えてね、四回目でこの有様だ」

人ごみを振り返って嬉しそうに言う。アツシくんが手を振ってくれたが、こちらに来ようとはしない。彼なりに忙しいようだ。

「新星を見つける会? 言い出しっぺは、彼ですか?」

「ああそうだ。孫の代わりに新星を見つけるんだ、なんて嬉しいことを言ってくれてね」

なるほど、ちゃっかりしている彼なら言いそうなことだ。望遠鏡を操るアツシくんは生き生きしていて、お蔵入りするしかなかった望遠鏡が日の目を見て水口さんも喜んでいる。わたしも手土産とともに良い報告を持ってきたから、三方万事目出たしってところかな。

「じゃ、残すは新星を発見するだけですね」

「はは、そう簡単にいくものかね。それに、ワシはもう見つけたよ」