父さんはあまりのことに驚いて飛び起きると、被っていた掛け布団を盾にして「ぼっちゃん! そんなものはダメだ!」と必死に懇願した。しかし相手は初めて手にした刃物が興奮させるのか、刀を握りしめて舌なめずりをしながらにじり寄ってくる。冬の分厚い布団から綿毛が部屋中に乱れ飛ぶ様子に肝を冷やしていると、うどん屋の息子は再び刀を上段に構え直した。

単に刀が切れるかどうかを試してみたかっただけ──この暴挙はそんなことが理由だった。父さんは凶器を持ち出されたことに、とうとう堪忍袋の尾が切れた。

相手が再び刀を振り翳した瞬間、盾にしていた掛け布団ごと体当たりをして、そのまま抱きついて簀巻(すま)きにし、布団の上から殴る蹴る、相手がもう二度と立ち上がらないのを見届けると、そのまま奉公先を飛び出してしまったという。

昭和三十三年に銃刀法が施行される前の時代では、日本刀が質屋で普通に売り買いされていた。

毎夜の晩酌をしながらこの話になると、「うどん屋の大将やおかみさんには親切にしてもらったのに、年季が明けるまで辛抱できずに悪いことをした」と、父さんはいつも悔やんでいた。

じいちゃんが二年分の給金を前借りして持っていってしまっていたけれど、父さんを憐れに思ったうどん屋の女将さんは、毎月少しの小遣いを大将に黙って余分にくれていた。ありがたく思った父さんはそれを使わずにせっせと貯めて、このお金で女将さんにいつか恩返しをしたいと考えていた。

それなのに最後まで奉公勤めを果たさなかったことを「本当に恩知らずなことだった」と懺悔していた。

ともあれ、そのお金があったおかげで十八歳になる少し前に、父さんは神戸を離れて北海道へ渡り、自衛隊に入隊することができた。「貧乏人の子のために自衛隊って制度があるんだよ。働きながら学校も行けて、いろんな資格もなんと! タダで取らせてもらえるからな!」

 

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父が自衛隊生活に耐えながらコツコツ貯めた学費は、友人に盗まれて、全部使われてしまった。戻らなかった。だが父は「一宿一飯の恩義だ」と…

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