さすがに、人間も音(ね)を上げたくなった。とにかく夜の間も子犬への攻撃をやめようとしない。追い立てられた子犬は、狭い戸棚の間に逃げ込んで固まっている。

子犬もかわいそうだし、醸にしても、何でこんなやつが家にいるんだと不満顔。人間は睡眠不足で、頭がぼうっとしてきている。

ところが、四日目になって、醸がいじめをピタッとやめた。

仲間として認めたのか、あるいは仕方ないと一人天下を諦めたのか。醸のあとを子犬がとぼとぼついて歩くようになった。醸は勝ち誇ったように尻尾をひらひらさせながら歩く。その姿はガキ大将のように見えた。

ひと月ほどすると、黒ラブは醸を上から見下ろすように体格がよくなって、足もすっくと長く育った。

それでも醸は、いかにも「早くしろ」だの「さあ行くぞ」と、弟の世話を焼く。まさに兄貴風を吹かせている。

時には黒ラブのほうが、「うるさいなあ、兄貴は」とでもいうように、長くて黒い棒のような脚で、ミニダックスをまたいでいく。

二匹そろっているところを見ると、どう見てもリーダーシップは醸のほうがとっている。

犬にとっても人間にとっても、年の順という階級が暗黙のうちに意識されるのだ。

人間の集まりで、宴会などで誰に乾杯を頼もうかという際は、年齢の一番上の人にお願いすれば、間違いはない。誰もが納得する。

私が外出するときは、犬たちは一緒に車に乗っていくことに決めていた。

私としては、時間に追われるときは犬などにかまっていられないのだが、事務所の机の足元に寝そべっている犬たちは、出かける気配を察してすっかりその気になっている。

私が立ち上がると同時に、尻尾をありったけ振って、一緒に行きたいとアピールする。 仕方がないので醸を横抱きにして、黒ラブは駆け足で、決まって車の助手席に乗り込む。

醸は運転席に乗って、長い胴体もろともシートベルトにくくられる。