「……分家の癖に」

その言葉には、かつての僕の母が抱えていたものと同じ、逃げ場のない『選民意識』という名の呪いが見えた。自分を正当化するために、唯一の理解者であるはずの子供を縛り付ける悲しい連鎖。

けれど、今の僕は、あの頃の何も言えなかった子供ではない。僕は足を止め、彼女の凍てついた瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

「……お母様」

努めて穏やかに、けれど芯の通った声で、僕は続けた。

「波瑠さんは、奥様の体裁や家の格を守るための道具ではありません。どこにでもいる幸せを願う権利を持った一人の人間です。」

母親の顔が、驚愕で白く強張る。

だが、その凍りついた表情の裏側に、剥き出しの選民意識とは裏腹な、微かな……本当に微かな娘を思いやる感情が揺れたのを、僕は見逃さなかった。

言い返す言葉を失った彼女を背に、僕は深く一礼してその場を去った。

彼女を救うことは、救えなかった僕の過去をもう一度書き換えることに等しかったのだから。

次回更新は8月25日(火)、20時の予定です。

 

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