4


「しかし……」

何かを言いたげな宗像を遮って心地は話を続けた。

「それに、現在確認できる限りだが、彼の絵のパブリック・コレクションとしては、フィレンツェ、ヴェネツィア、アムステルダム、エジンバラの各美術館とロンドンのナショナル・ギャラリーに、それぞれ一点ずつ所有されているに過ぎない。合計で僅かに五点。恐らく残る二十三点の殆どは個人所有だろうよ。だからこそ、俺でもなかなか分からなかったはずだ」

「やはり特異な画家ということか?」

「そういうわけだな。話は戻るが、俺はフェラーラの絵にロイド財団が濃密に肩入れしている事実の方に、むしろ興味がそそられるよ。権威ある受賞八件のうちの二件は、完全にロイドだし、画集や作品集などは全てロイド出版だ。批評家も当時ロイド・ファミリーと目されていた連中だし、偶然というにはな? しかし、ちょっと面白そうだな」

「ロイドとはそれほどの?」

「そうだ。今回、画集で見た限りだが、絵は確かに凄腕のテクニッシャンによって描かれているし、ミステリアスな絵でもある。だが、ロイドとの関係が一番興味をそそられる部分だよ。何しろロイドといえば、英国随一の大ギャラリーを持つだけでなく、オークション機構を所有していたり、出版その他の文化事業にも深くかかわる、一大芸術文化のシンジケートだからな。

宗像、お前は知らんだろうが、今ロイドには大きな問題が起きている。全てを掌握していたエドワード・ヴォーン会長が、つい二カ月ほど前に突然亡くなってしまったんだ。後継者も作らずに四半世紀、たった一人でロイドを取り仕切ってきた男だ。もしもこの件に何か特別の事情があったとしても、今となれば真実は分からんだろう。すべてが藪の中だ」

「心地、お前、わずかな時間でそれだけ調べたのか? さすがだな。だが先ほどのヴォーン氏だが、残されたご家族はどうなっているんだ?」