サトシは「うぅ〜ん」と、うつむいて必死に思い出そうとする。短気な父さんは考える時間などくれやしない。サトシが答えられないと判断するやいなや、「有香は? わかるか?」とすぐさま私に矛先を向ける。

「チョップスティック」

「皿は?」

「ディッシュ」

「おわんは?」

「ぼ、ぼおる……」。私の声もサトシにすまなくて小さくなる。その刹那(せつな)。悲しい一撃がサトシを襲う。

「おい! サトシ! このノータリン! 四歳も年下の妹が覚えているのに、テメエはちゃんと聞いていなかった証拠なんだよ! クソバカが! 風呂場へ来い!」

サトシはすぐに鼻血を出して部屋を汚すので、父さんが殴る時には風呂場へ連れていかれる。

一応、私も覚えられませんでしたバージョンっていうのも試してみたけど、サトシと二人一緒に風呂場で殴られるだけなので付き合い切れないからパスした。サトシに答えを教えるバージョンは兄貴としてのプライドが許さないようで受け入れられず、結局はあとでサトシに殴られるのでやめた。

毎日、毎日、「妹にできて、お前は長男のくせになんでできないんだ!」って年端も行かぬ頃から怒鳴られていたら、サトシが妹を憎々しく思っても仕方がなかったのだろう。

年々、サトシの妹いじめはエスカレートし、頻繁になり、かなりのものになっていった。姑息な暴力、暴言に、友達を家に連れてきて私たち妹を裸にしてはイタズラを試みることが何度も繰り返された。

そんな行いが両親にバレたため、サトシは高校二年になったあたりから、近所にアパートを借りて家族とは別に住むことになった。家には食事だけを取りに立ち寄る程度の出入りしか許されなくなった。

当然、タエはサトシのことが大嫌いなので、大人になってもほとんど口をきかない。