【前回の記事を読む】父特製・鱗カレー。尾頭ごと鯛が煮込まれていて、無数の鱗が口内にへばりついた。隠れてトイレに流そうとした瞬間…

第二章 自立 

この夏に母さん達が出て行ってから、父さんは私にスポーツ新聞を買ってこいと命じるようになった。新聞を買うようなお金すらもうないのに……。

新聞代は父さんが中国を旅した時に出会った、安東郷(あんとうごう)とかいう著名な陶芸家にもらってきた、ものすごく自慢のツボをひっくり返してその中の小銭をかき集める。

でも、もうその中には五円玉と一円玉しか入っていない。父さんはかき集めた何十枚もの小銭を私に持たせて、中学の同級生のピーがアルバイトをしている近所のセブンイレブンへ行ってスポーツ新聞を買ってこいと命令するのだ。

ビニール袋にじゃらじゃら入れた五円玉や一円玉ばかりの小銭の百十円は、うちにお金が全然ないことを証明するかのように思えた。

仲良しのピーにそんな小銭で新聞代を払うのは十代の女の子として死ぬほど恥ずかしかった。初めてそんなお使いを言い渡された時には嫌でたまらず、「父さん、こんな砂利銭で買い物に行くのは嫌です、恥ずかしいです」などと父さんに言ったのが間違いだった。

「なぁにがっ! 恥ずかしいんだよ! 色気付きやがって! この野郎!」と、問答無用――即座に裏拳(うらけん)で殴られて、顔が腫れてしまったまま新聞を買いに行く羽目になった。

レジで新聞代の小銭を数えるのが恥ずかしいやら情けないやら。口もきかずにお金を数える私を見てピーは何かを察してくれた。

二度目からピーは「いいよ、新聞代。オレの奢り」と言ってきた。細かいことは知らないはずのピーだったけど、彼は黙って何度もタダで私に新聞を渡してよこした。

そうやって私がキツイ思いでスポーツ新聞を手に入れてくると、父さんは一面の下方の広告に目を通して赤ペンで丸をつけ、片端からサラ金業者に電話をかけてお金を借りまくる。スポーツ新聞はお金を貸してくれるサラ金業者を探すために必要なのだった。